ロックな畳職人。村松畳店 村松俊弥に密着
松本市梓川にある「村松畳店」で情熱を感じてきた。
松本市中心部から西へ10km。
信州安曇野の原風景を残す、のどかな農村部に村松畳店はある。
同店はこの地で100年以上、国産の畳を製造しつづけ、地域になくてはならない店として、その名を知られている。
畳は一見どれも同じように見えるが、畳表(※)には国産と外国産があり様々な種類がある。
村松畳店は研究熱心な熊本の農家が丹精を込めて育てたイグサを織り上げた自慢の畳表を使用している。
洋式化される住まいが増え、畳の需要は減っているかと思いきや、近年は畳の良さが見直され、和室を造るお宅が増えているという。
自然素材である国産のイグサは体にも安全で、シックハウスなどアレルギー対策にも良いとされる。
また、赤ちゃんのいるお宅などは、ハイハイや歩く練習の場として和室は大事なスペースとなる。
そのような和の象徴でもある畳が、この工場で毎日のように生み出され、古い畳は魂を再注入され蘇る。
この男の手によって。
村松畳店5代目店主、村松俊弥。
畳職人としてだけでなく、さまざまな顔を持つ男だ。
ある時はバンドでドラムを叩き、
またある時は地域の火の用心。
またある時は笛を吹きながら子供たちを先導する。
そんな男の作る畳はマジで美しい。
ミリ単位、いやゼロコンマ数ミリの狂いも許さない。
正確無比。その無駄のない動きを形容するなら機械というより芸術。
畳マシーンではなく、畳アーティストという呼び名が相応しい。
彼は古い畳を直しながら、畳話を聞かせてくれた。
今、彼が修繕しているのは30年程前に先代である彼の父が作った畳だそうだ。
父が作った畳が30年の時を経て、今息子が直す。
地域に愛され、信頼という歴史を重ねてきたからこそ実現する、壮大で浪漫と情熱溢れるストーリーだ。
表替え(※)をする時などに畳表を剥がすと、その畳を使用していた家人の生活がイメージできるという。
畳床が一カ所だけ沈んでいれば、そこが一家の主である旦那さんの席なのだろうと見て取れるし、畳の端の傷みを見れば、そこが入口部分であり、人が一番よく歩く場所なのだろうと想像できる。
細かい土が畳の中に入り込んでいれば、農家のお宅の居間の可能性が高いという。
まるで名探偵の推理を聞いているようでワクワクしてくる。
このような職人ならではの観察眼は彼の目力にも通ずるものだろう。
畳のお手入れの仕方
畳職人に畳のお手入れ方法について聞いてみた。
基本は掃除機や拭き掃除だけで良いそうだが、畳の目に沿って拭くのが望ましいとのことだ。
いい畳表は多少の事では痛まないが、なるべく目の方向に掃除するようにしよう。
畳雑貨の数々
村松畳店では、畳をもっと身近に感じてもらおうと、畳べりを使った雑貨のデザインをしている。
ストラップやキーホルダー、バッグなど実に多彩な畳雑貨。
手触りが良く、温かみを感じる。そのうえ丈夫…と、女性を中心に人気が高い。
アーティストとのコラボ
バイタリティ溢れる畳職人は、畳を作るだけではなく、アーティストとして多様なその他のアーティストとコラボレーションを企画している。
先日行われたチャリティイベントでは、使われなくなった古畳にイラストレーター3人がライブイベントをするという試みがあった。
2日がかりで4人のプロジェクトチームが仕上げた畳アートは、圧巻の一言。通りかかる人々もその迫力に思わず立ち止まり、しばし魅入ってしまうほどだ。
常に新たな『タタミ』の可能性を探り、生み出す畳界のニューウェーブ。
人と地域と畳とロックを愛する職人、村松俊弥。
この男が語ってくれた言葉が印象的だった。
『畳は生きている。真摯に向き合えば、必ず応えてくれる』
注釈
※たたみおもて。イグサの茎で織ったござ。畳の表につける。
※おもてがえ。畳床はそのままで畳表だけを取り替える)
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